にほんブログ村 教育ブログ 生涯学習・教育へ
にほんブログ村 http://pharmacist2.jugem.jp/ https://confessiondemasquepharmacist.wordpress.com/2021/01/10/

あしたへ向かって

トレンド、医療、政治、趣味について書いていきます

COVID-19に“効く”薬の検証はどこまで進んだ

COVID-19に“効く”薬の検証はどこまで進んだ


 

 

感染症学会が示す、現時点でのCOVID-19に対する薬物治療(最新版は第6版、8月13日)は、レムデシビル(商品名ベクルリー)、デキサメタゾン、ファビピラビル(アビガン)、シクレソニド(オルベスコ)、トシリズマブ(アクテムラ)、ナファモスタットがある。このうちCOVID-19に対して承認を得ているのはレムデシビルとデキサメタゾン(2020年10月23日時点)。その後、いくつかの薬剤で対照群を設定した臨床試験の結果が報告されている。COVID-19の治療候補薬剤はどこまで効果が証明されたのか。最新の動向を見てみると

レムデシビル(ベクルリー)

・米国では正式な承認取得、日本でも特例承認。
・中等症~重症患者に対し、5日間投与はプラセボに比べて回復までの期間や症状を有意に改善。
・重症患者のうちアジア人や黒人に対する効果は統計学的には有意ではなかった。
・WHOが世界30カ国で実施中の試験の中間報告では院内死亡率にプラセボ群と差なし。

 レムデシビルは核酸アナログ製剤で、ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害する。エボラ出血熱に対して開発が進んでいた薬剤で、基礎的検討でSARS-CoV-2に対して良好な活性を示したことから開発が進められた。

 日本で特例承認を取得した根拠となったのは、(1)米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が主導した試験(1062人をランダム化割り付け)、(2)米Gilead Sciences社による国際共同試験(同397人)、(3)人道的使用による投与経験──の3つのデータ。

 NIAIDが主導した米国の試験では、肺炎画像所見あり、SpO2≦94%、酸素吸入を要する、人工呼吸器管理、のいずれか1つが認められる重症入院患者をレムデシビル群とプラセボ群に分け、回復までの期間を比較検討した。ここで言う「回復」とは、病状を8段階に分け、このうち(1)退院し、生活制限なし、(2)生活制限があり、在宅酸素は必要だが退院、(3)入院中だが酸素療法も薬物治療も不要、の3つの段階のいずれかに改善した状態を指す。その結果、回復までの期間中央値は、レムデシビル群は11日で、プラセボ群15日に対して有意に短縮することが示された(ハザード比1.31、95%CI:1.12-1.54、p<0.001)

 米Gilead Sciences社が実施した、NIAIDによる試験とほぼ同じ状態の重症患者を登録した国際共同試験では、7段階尺度による重症度評価指標の改善について5日間投与群、10日間投与群をプラセボ群と比較した。中間解析の段階では5日間投与群と10日間投与群の改善のオッズ比は0.76(95%信頼区間0.51-1.13)と差がないという結果だった。ただし、7段階尺度で2段階以上改善した患者の割合は5日投与群、10日投与群それぞれ65%、54%、酸素療法を要しないまたは退院が得られた患者の割合は70%、59%、死亡は8%、11%という結果が示されている。

 3つ目の人道的見地に基づく使用の経験の成績では、47.2%に酸素療法の状態の1段階以上の改善が得られ、死亡率は20.2%とされている。

 こうした結果から、米国では5月1日に緊急使用許可、日本では5月7日に特例承認がされた。これまで、いわば「仮免許」の段階だったレムデシビルだが、10月22日、FDAはレムデシビルを正式に承認。この承認の根拠は上記のNIAIDが実施した試験とGilead社が実施した2つの臨床試験の結果に基づいている。

 このうち、NIAIDが実施した試験の最終報告が10月9日に発表されており、回復までの期間中央値はレムデシビル群10日で、プラセボ群15日に対して有意に改善することが確認された。投与後15日時点でのカプランマイヤー法による累積死亡率はレムデシビル群6.7%、プラセボ群11.9%とされた。ただし、人種別のサブグループ解析の結果で、試験全体の13%を占めたアジア人、21%を占めた黒人では有意差が認められていない(Beigel et al, NEJM, 2020年10月9日最終報告)。

 Gilead社は先に述べた重症例を対象とした試験とは別に、SpO2>94%の中等症患者を対象にした臨床試験も実施しており、5日投与群、10日投与群、プラセボ群に分けて検討した(596人をランダム化割り付け)。投与開始から11日目での評価を行った結果、5日投与群はプラセボ群に対してオッズ比1.65(95%CI:1.09-2.48、p=0.02)と統計学的に有意な症状の改善が得られたという結果が、8月21日に報告されている(Springer et al, JAMA,2020;324:1048-1057)。なお10日投与群のプラセボ群に対するオッズ比は統計学的に有意ではなかった。投与から11日時点での死亡率は10日投与群1%、5日投与群0%、プラセボ群2%という結果。

 ただし、レムデシビルについては、査読前論文であるものの、WHOが主導し、南米、アフリカ、東南アジア、北欧、東欧、インド、カナダ、西欧など30カ国から患者を登録して実施中の臨床試験(Solidarity試験)の中間解析で、試験薬を投与しない群と比べて院内死亡率に有意差がないことが、10月16日、報告された

 Solidarity試験は1万1266人を、レムデシビル群2750人、ヒドロキシクロロキン954人、ロピナビル群1411人、インターフェロン+ロピナビル群651人、インターフェロン群1412人、対照群4088人に分け、院内死亡率を検討する試験。中間解析となる今回はレムデシビルを始め、いずれの薬剤も死亡率のほか、機械式換気までの期間、入院期間の短縮について有意な効果が確認されていない。

 このSolidarity試験の参加者1万1266人のうち、アジア/アフリカからの登録が6割を占めており、これまでのレムデシビルの臨床試験とは患者背景や医療環境が異なる可能性もあり、今後の詳細な検討が待たれる。

 現時点でレムデシビルの評価は、「特に白人の、中等症から重症の患者に5日間投与すると症状改善には有効」と言えるのかもしれない。

 

confessiondemasque.hatenablog.com

confessiondemasque.hatenablog.com

confessiondemasque.hatenablog.com

confessiondemasque.hatenablog.com

 

ファビピラビル(アビガン)

・日本で承認申請。
・企業が実施した、非重篤な患者を対象とした臨床試験で、症状の軽快およびウイルス陰性化までの期間がプラセボ群14.7日に対してファビピラビル群は11.9日と有意に短縮。
・国内407施設でファビピラビルを投与された患者を登録した観察研究では、入院から1カ月時点での死亡率は軽症例5.1%、中等症例12.7%、重症例31.7%だった。

 ファビピラビルは日本で開発された核酸アナログ製剤で、ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害する。新型または再興型インフルエンザウイルス感染症の適応で2014年に承認されている。基礎的検討でSARS-CoV-2に対して良好な活性を示したこと、今年3月には、中国から、抗HIV薬であるロピナビル・リトナビル(カレトラ)と比較してウイルス消失時間が短縮され、画像所見の改善も早かったという非ランダム化比較試験の結果が報告されたことから、特に日本では期待が高まっていた。

 藤田医科大学が中心となって行われた観察研究では、国内407施設でファビピラビルを投与された2158例が登録され、入院から1カ月後までの転帰が入力された1918例が検討された。内訳は軽症者45.2%、中等症43.9%、重症10.9%。投与後7日目の臨床的改善率は軽症例で73.8%、中等症例で66.6%、重症例で40.1%、14日目の改善率は軽症例87.8%、中等症例84.5%、重症例60.3%という成績だった。入院から1カ月後までの死亡率は軽症例5.1%、中等症例12.7%、重症例31.7%だった。

 その後、同じく藤田医科大学が中心となって行った、無症状・軽症患者を対象とした臨床研究では、試験参加1日目から内服を開始した通常投与群と6日目から内服を開始した遅延投与群に分けて比較検討されている。参加6日目まで(遅延投与群が内服を開始するまで)のPCR陰性化率は通常投与群66.7%、遅延投与群56.1%で、調整後ハザード比1.42(95%CI:0.76-2.62、p=0.269)だった(2020年7月10日プレスリリース)。遅延投与群は疑似的なプラセボ群と考えると無症状・軽症例において投与から6日目時点でのウイルス消失率に差はあるかもしれないが、統計学的には有意ではなかったという結果となる。

 一方、ファビピラビルを製造販売する富士フイルム富山化学は、10月16日、COVID-19の効能・効果を追加する適応拡大の申請を行った。

 その根拠となった試験は、胸部画像で肺病変があり、37.5℃以上の発熱を認めるが非重篤な入院患者が対象で、ファビピラビルの標準的治療への追加の効果を検証したもの。体温や酸素飽和度、胸部画像などの症状の軽快かつウイルス陰性化までの期間が、プラセボ群14.7日に対してファビピラビル群11.9日で、調整後ハザード比1.593(95%CI:1.024-2.479、p=0.0136)と有意に短縮したと発表されている(2020年9月23日プレスリリース)。

 現時点でファビピラビルの評価は、「軽症例において、症状の軽快やウイルス陰性化率が数日早くなる」と言えるかもしれない。

デキサメタゾン

厚労省は「新型コロナウイルス感染症診療の手引き」の薬物治療の項で、国内で承認されている医薬品として紹介。
・英国でのプラセボ対照試験で死亡率減少を証明。
・登録時に酸素療法を必要としなかった患者群では予後改善効果は認められず。
・サブグループ解析ではアジア人、黒人で死亡率の改善は統計学的に有意ではなかった。

 これまでのところ、SARS-CoV-2の感染者の中に過剰な炎症反応が惹起され、血栓塞栓症や組織障害を引き起こすケースがいる。デキサメタゾンはこの過剰な炎症反応を予防もしくは抑制すると考えられている。

 英国で実施された入院患者を対象としたプラセボ対照試験は、最大10日間連日静注するプロトコールで主要評価項目に死亡率を設定した。予備的解析結果が7月17日にNEJM誌に報告されており、登録日から28日後までの死亡率はデキサメタゾン群22.9%、プラセボ群25.7%で、標準的治療にデキサメタゾンを追加することで有意に死亡率を下げられることを証明した。

 サブグループ解析として、機械式換気もしくは酸素療法を受けていた患者でもデキサメタゾン群は有意に死亡率を低下させた。特に機械式換気を必要としていた患者の死亡率減少効果が最も高く、デキサメタゾン群29.3%、プラセボ群41.4%とリスクを36%低下させている。一方、登録時に酸素投与を受けていなかった患者ではデキサメタゾン群の死亡率17.8%、プラセボ群14.0%で、予後改善効果は確認されていない。

 この臨床試験の詳細な解析結果の報告はまだだが、現時点でのデキサメタゾンの評価は「酸素療法が必要な患者に最大10日間投与すると死亡率を低下させる。酸素療法が必要でない患者ではその効果はまだ不明」というものだろう。

抗IL-6受容体抗体(トシリズマブ[アクテムラ]、サリルマブ[ケブザラ])

・企業主導の治験が1薬剤につき2試験(プラセボ対照)ずつ発表。主要評価項目を達成したのは計4試験のうち1試験。
・陽圧換気以上の酸素療法を必要としない肺炎で入院中の患者(SpO2≦94%)を対象としたトシリズマブの試験で、機械式換気導入もしくは死亡を有意に抑制(28日後の機械式換気導入率はトシリズマブ群12.2%、プラセボ群19.3%)。ただしこの試験では退院までの期間、臨床的改善までの期間には有意差なし。
・登録時1回投与、状態に応じてもう1回まで投与可能なレジメンで効果を検証。
・他の3試験では退院までの期間や臨床的改善までの期間を短縮する傾向にあったが、有意な差ではなかった。

 デキサメタゾンと同様、COVID-19患者の体内で起こる過剰な炎症を、インターロイキン-6の受容体に結合することで阻害すると期待されていたのが抗IL-6受容体抗体のトシリズマブとサリルマブ。特にトシリズマブは、今年6月、同薬を投与された重症患者の後ろ向き観察で侵襲的人工呼吸管理や死亡のリスクを低下させたというイタリアの発表や米国の死亡率を低下させた後ろ向き観察研究などのほか、既に国内外で「腫瘍特異的T細胞輸注療法に伴うサイトカイン放出症候群」の適応があり、COVID-19に対する有効性への期待とつながった。それぞれの薬剤が7月に1試験ずつ、9月にも1試験ずつ、結果の概要が企業から発表された。

 しかし、計4つの試験のうち、3試験は主要評価項目を達成できずに終わった。これらの試験は重症肺炎例を対象に標準的治療に対する上乗せ効果を検証するもので、死亡から退院まで、酸素投与や薬物治療の必要性に応じて7段階に分けた重症度を指標として、それが1段階以上改善した患者の割合を検討したが、いずれも統計学的に有意な差を示せなかった。

 唯一、主要評価項目を達成したトシリズマブの試験は、陽圧換気以上の酸素療法を必要としない肺炎入院患者を対象とした試験で、人工呼吸器(機械式換気)装着もしくは死亡のリスクを44%改善したと発表されている。ただし、この試験では退院もしくは臨床的改善までの期間の短縮には効果が認められていない。

 現時点でトシリズマブの試験の結果から、「高度な酸素療法を必要としない肺炎入院例に対し、人工呼吸器装着を予防できる」可能性があるが、サリルマブの試験では機械式換気を行っていなかった患者ではサリルマブ投与群の方が悪化傾向にあるという逆の結果も出ている。このサリルマブの試験で登録時に人工呼吸器を装着していなかったケースが、人工呼吸器装着が不要だったケースなのか、他に装置が足りずに装着できなかったのかといった理由は現時点で分からず、抗IL-6受容体抗体はまだ検証されるべき段階だと言える。なお、トシリズマブについては現在、国内でも第3相臨床試験が進められている。

インフルエンザ治療に近づいてきた?

 これまでの結果は、レムデシビルやファビピラビルはCOVID-19患者の症状改善までの期間を短縮し、重症例の生命予後改善にはデキサメタゾンが有効で、抗IL-6受容体抗体も有効な可能性があるとまとめられる。これは、SARS-CoV-2と同じ1本鎖RNAウイルスであるインフルエンザウイルスに対する治療に近づいていると言えるのかもしれない。インフルエンザに対する抗ウイルス薬であるノイラミニダーゼ阻害薬(感染細胞からのウイルスの遊離阻害)、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(ウイルスRNA合成阻害)はいずれも咳や喉の痛み、頭痛、鼻づまりや関節痛、悪寒、疲労感などの全ての症状が「なし」もしくは「軽度」に改善するまでの期間を評価しており、いずれもプラセボ群に対して1日~3程度短縮することを証明し、承認されている。インフルエンザ感染症が重症化した患者で起こるインフルエンザ脳症では、支持療法や抗ウイルス治療としてのノイラミニダーゼ阻害薬のほかに、ステロイドパルス療法、ガンマグロブリン大量療法が行われている。いずれも高サイトカイン血症に対する治療だ。

 毎年国立感染症研究所厚生労働省が発表しているインフルエンザ動向によると、2017/18シーズンの全国500施設の基幹定点医療機関におけるインフルエンザによる入院症例は2万759人で、このうちICUを利用した患者は3.7%(776人)、人工呼吸器を使用した患者は2.7%(555人)、インフルエンザ脳症発症例は0.8%(171人)とされている。人口動態統計においてインフルエンザによる死亡とされているのは2569人(2017年)で、インフルエンザに関連して死亡した人数(インフルエンザ超過死亡数)は1万人前後と言われている。

 COVID-19については、10月15日時点で、国内の累計陽性者数8万9637人(空港検疫例除く、以下同)、死亡者数1.8%(1645人)。世界では4300万人の陽性者、うち死亡者は2.7%(115万人)とされている(10月26日時点)。

 今回取り上げたレムデシビル、ファビピラビル、デキサメタゾン、抗IL-6受容体抗体、そして現在開発が進められている他の薬剤がCOVID-19患者の治療成績をどう向上させていくか、注目されている。

 


 

 【質の高い教材】 ・約1,200種のレベル別・目的別オリジナルテキストが《無料》で利用可能。 ・「発音自習教材」ネイティブスピーカーによる、 カリキュラムテキストの音声ファイルも追加料金なしで利用可。 ・TOEIC対策、英検二次面接対策も有料テキストで受講可能 【初心者から上級者までレベルとニーズに合わせた講師陣】 日本語で相談ができる日本人講師 ナチュラルなスピードや発音を学べるネイティブ講師