新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)が世界的に拡大する中で、その治療薬に関心が集まっている。
オセルタミビルリン酸塩(商品名タミフル他)やファビピラビル(アビガン)抗インフルエンザ薬、抗マラリア薬のクロロキン、プロテアーゼ阻害薬のロピナビル・リトナビル(カトレラ)、そして、エボラ出血熱の治療薬として開発されたレムデシビルなどが治療薬候補として期待され、既に臨床試験が開始されている1。なお、症例報告にて有用性が示唆されたシクレソニド(オルベスコ)については、次回「
■ロピナビル・リトナビル
ロピナビルはHIV感染症に用いるプロテアーゼ阻害薬の1つで、リトナビルもプロテアーゼ阻害薬で、抗レトロウイルス作用を持ちますが、同薬は薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)3Aによるロピナビルの代謝を競合的に阻害し、ロピナビルの血中濃度を維持する目的で配合されています。
ロピナビル・リトナビルは2003年に流行したSARSコロナウイルス感染症に対する有効性が示唆されていたことから、12年9月に発生したMERSコロナウイルス感染症に対しても治療薬候補に挙げられていたのですが、有効性を検証した質の高い研究は報告されなかったため、臨床効果について決定的な示唆は得られていないとされています。今、COVID-19に対するロピナビル・リトナビルの有効性を検討したランダム化比較試験が発症されでいます。
論文情報からの薬剤師の視点、考察
治療効果が実証された薬剤はいまだ存在せず、注目が集まっている治療薬候補の有効性は仮説でしかありません。従って、現段階で新型コロナウイルスに対して最も有効な対処法は、治療よりも予防するしかないのが現状です。こまめな手洗いをすること、人混みを避けること、咳エチケットを順守することによって、感染拡大の抑止に一定の効果が期待できます。
また、シクレソニドに出荷制限がかかってしまったような事態を避けるためにも、臨床試験データは冷静に読み解く必要があります。感染症の急性期における治療の有効性を検討した非ランダム化比較試験(観察研究を含む)では、介入群と対照群における被験者の背景に注意が必要です。ランダム化されていない研究において、薬剤投与群は重症者が多い傾向にある一方で、薬が投与されていない群は相対的に死亡リスクの低い軽症集団に偏ると考えています。この場合、薬剤効果を過小評価することにつながりますさらに盲検化されていない研究では、重症者という患者背景がより手厚い医療を提供させるバイアスになるかもしれないとも考えられています。この場合は、重症者に投与されていた薬の効果は過大評価されるでしょう。
最後に、1つの研究データだけでなく、複数の研究データを横断的に見ていくこと、その中で結果の一貫性を評価していくこと、さらには研究デザインに注目し、結果の妥当性(バイアスの存在)を慎重に吟味していく姿勢が大切であると言えるでしょう。
バイアスとは先入観の事です
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