重篤なCOVID-19患者にトシリズマブは有望なのかサイトカインストームを抑制して重症患者の死亡率を下げる？

重篤なCOVID-19患者にトシリズマブは有望

サイトカインストームを抑制して重症患者の死亡率を下げる

重篤なCOVID-19患者では、サイトカインストームが生じている可能性が示唆されていた。中国科学技術大学のBinqing Fu氏らは、IL-6の受容体阻害薬であるトシリズマブを、IL-6値が上昇している重症患者21人に投与して、めざましい症状改善効果が得られたと報告した。予備的な研究の結果は、Journal of Translational Medicine誌電子版に2020年4月14日に掲載された。

　COVID-19患者のおおよそ25％は、ARDSを含む重症の合併症を経験し、進行すればICU治療を必要とする。多臓器不全を起こして死亡するリスクも高い。COVID-19患者、特にICUに入院している患者では、血漿中の炎症性サイトカイン、すなわち、TNF-α、IL-2、7、10、G-CSF、MCP-1（MCAF）、MIP-1α、IP-10（CXCL10）などの濃度が上昇しており、サイトカインストームが発生していると考えられている。

　COVID-19で死亡した患者の病理解剖標本を分析した報告では、両側肺に、浮腫、タンパク質性滲出物、斑状の炎症性細胞浸潤を伴う肺胞上皮細胞の限局性反応性過形成、多核巨細胞などの存在によって示される、びまん性肺胞傷害が認められたと報告されている。また、II型肺胞上皮細胞の増殖が顕著で、一部の細胞は剥離していた。肺胞中隔血管は充血しており、浮腫状で、明らかな血栓症が認められた。肺間質には、単球、リンパ球、形質細胞が浸潤していた。免疫組織化学染色を行ったところ、CD3、CD4、CD8、CD20、CD79a、CD5、CD38、CD68を含む免疫細胞が認められた。こうした知見は、異常な免疫反応による肺胞滲出液の増加とサイトカインストームが、肺胞でのガス交換を妨げ、患者を死に至らしめることを示唆している。

　サイトカインストームに関与するサイトカインは、重症のCOVID-19患者の治療のための標的として有望だ。著者らは、どの免疫細胞が関与しているのかを明らかにし、また、治療薬開発のための標的として重要な炎症性サイトカインを同定するために、中国科学技術大学付属病院に入院した、重篤な患者の末梢血を分析した。

　ICUに入院している患者の末梢血中に存在していた異常な病原性T細胞は活性化されており、IFN-γとGM-CSFを共発現していた。CD14+CD16+の炎症性単球も見つかった。また、重症度の高い患者ほどIL-6濃度が高かった。さらに、死亡したCOVID-19患者由来の標本にも、病原性のTh1細胞（GM-CSF+IFN-γ+）と炎症性単球（CD14+CD16+でIL-6発現量が高い）が数多く存在していたことから、著者らは、重症または重篤な患者では、それらの細胞が大量に肺循環に侵入し、サイトカインストームを引き起こすと考えた。

　トシリズマブはIL-6受容体の阻害薬で、関節リウマチの治療に承認されている。そこで著者らは、重篤なCOVID-19患者に対するトシリズマブの有効性と安全性を検討することにした。対象は、重篤なCOVID-19患者で血液中のIL-6濃度が上昇しており、本人または家族から同意が得られた21人。患者には標準治療（ロピナビル、メチルプレドニゾロンの投与や酸素療法など）を行うと共に、トシリズマブを投与した。

　トシリズマブはめざましい効果を発揮した。全員の体温が速やかに平熱に戻り、呼吸機能をはじめとする全ての症状が顕著に改善した。21人の患者のうち20人が、トシリズマブ投与から2週間以内に退院した。残りの1人も回復してICUから出ることができた。トシリズマブ治療期間中に、有害事象は報告されなかった。この予備試験の結果により、著者らは、より大規模な臨床試験を開始し、既に500人を超える重症または重篤なCOVID-19患者にトシリズマブを投与したという。

　中国では、「第7版COVID-19診断および治療計画」にトシリズマブを用いた免疫治療戦略が組み込まれたため、2020年3月3日から正式に適用が可能になった。トシリズマブは、CT画像において両側肺の透過性の低下が著しい重症患者で、血液検査でIL-6値が上昇している人々に適用可能となっている。初回は4～8mg/kgを投与（推奨用量は400mgで、0.9％生理食塩水に希釈して100mLにし、1時間以上かけて静注）する。反応が乏しかった患者には、12時間後に再度同量を投与する。投与回数は最大で2回で、1回の用量が800mgを超えてはならないとされている。著者らは、発熱が3日以上続く患者にIL-6検査を行い、20pg/mLを超えていた場合にトシリズマブの投与を推奨している。

　これらの結果から著者らは、血液中のIL-6濃度が高いCOVID-19患者に対して、トシリズマブはサイトカインストームを抑制し、死亡率を減らす有効な治療薬であることが示唆されたと結論している。