にほんブログ村 教育ブログ 生涯学習・教育へ
にほんブログ村 http://pharmacist2.jugem.jp/ https://confessiondemasquepharmacist.wordpress.com/2021/01/10/

あしたへ向かって

トレンド、医療、政治、趣味について書いていきます

世界初の抗体医薬の花粉症治療薬について解説しています2

世界初の抗体医薬の花粉症治療薬抗体医薬であるオマリズマブ(商品名ゾレアが、花粉症治療薬として登場した記事を前回書いた。今回の記事は前回の続編であるが、受診する対象患者側として、次に気になるのは薬価であると思う。今回は薬価に焦点を当てた記事である。

 

高額薬剤の濫用を警戒?薬価も争点に

 私は、「高額で、しかも花粉症というQOL疾患(放置しても死ぬことはないが、生活の質がとても落ちる病気)の治療薬であるため、臨床の現場でオマリズマブむやみやたらに処方・使用されることを恐れているのだろう」と推測している。医療財政の問題から、抗体医薬であるオマリズマブの使用機会をできるだけ減らしたいという考えが、ガイドラインに反映されているのではないかというわけだ。

 だが、このガイドラインについては疑問を感じている。なぜなら、投与対象となる季節性アレルギー性鼻炎患者に対し、「本剤を含む薬物療法は対症療法であるが、アレルゲン免疫療法(減感作療法)は長期寛解も期待できる治療であることから、季節性アレルギー性鼻炎の治療選択肢について患者に十分説明すること」としている点だ。保険適用上の留意事項でも、投与開始時に診療報酬明細書の摘要欄に記載する事項の1つとして「アレルゲン免疫療法(減感作療法)に関する説明内容」を記載することを求めている。

 花粉によるアレルギー性鼻炎がつらくて受診した患者に、そのタイミングでは実施できない舌下免疫療法の説明をしてどうするのかが、引っかかった点だ。それは、アレルゲン免疫療法、つまりスギ花粉の舌下免疫療法は、花粉が飛散する時期には実施できないからだ(最近では18年6月末に登場した スギ花粉の舌下免疫療法として使用する錠剤の「シダキュア」が記憶にあたらしい

「薬価だけに目を向けて処方を縛る規制をするのは愚策でありオマリズマブを希望する患者に対し、医師が薬剤の組成や効果、安全性、費用対効果などをきちんと説明し、患者も理解した上で使用の可否をともに考えるのが真の適正使用だ」というのが私の考えだ。

 もっとも、生死にかかわるわけではない花粉症に対し、薬価が高額にならざるを得ない抗体医薬を保険適用するべきなのかという論点があるのは当然だ。ゾレア皮下注用150mgの薬価は、1瓶4万6422円。1回600mgのオマリズマブが必要となる前述の例であれば、1回の治療に18万5000円ほどの薬剤費がつぎ込まれる。

 実は、ゾレアの適応拡大に当たっては、薬価そのものを引き下げることも議論されているようだ。ノバルティスファーマスイス・バーゼルに本拠地を置く、国際的な製薬・バイオテクノロジー企業は当初、効能追加の承認を留保していた。留保というのは、国際法における制度で、国が特定の規定に関して自国についての適用を排除・変更する目的をもって行われる一方的宣言のことだが、その理由を、「ゾレアを適正に使用いただくためには、医療関係者に『最適使用推進ガイドライン』の内容を良く理解してもらう必要がある。その準備をするため」とノバルティスファーマは説明している。しかし、「効能追加承認をメーカーが留保していたのは、薬価の面で折り合えていなかったため」ではないかとも意味にもとれる。

 現在、中央社会保険医療協議会の薬価専門部会では、主たる効能・効果の変更がなされた医薬品の薬価を改定する「効能変化再算定」を、季節性アレルギー性鼻炎に適応拡大したゾレアにも当てはめようという議論があるのだという。現行の効能変化再算定のルールでは、「主たる効能・効果」に変更があった医薬品の薬価を、既存の薬理作用類似薬の価格に近づけるよう算定することになっているが、ゾレアの適応拡大には、薬理作用が類似した既存薬がない。

 そこで今回、このような薬理作用類似薬がない場合にも効能変化再算定を適用できるよう、ルールを変更することについて議論されている。再算定となれば反対の理由がないため、メーカー側としては効能追加承認を留保するという苦肉の策に出ざるを得なかった、というのが私の見解だ。結果的に効能追加を受け入れたことで、年明けには薬価再算定となるかどうかの決着がつくのではないかと推測しているところだ。

 ノバルティスファーマはこの件について、「コメントは差し控える」と回答している。