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あしたへ向かって

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レムデシビルを投与されたCOVID-19患者の転帰

米国Cedars Sinai Medical CenterのJonathan Grein氏らは、入院している重症COVID-19患者に対する未承認薬の人道的使用として、北米、欧州、日本で1月25日~3月7日までにレムデシビルを投与された患者の治療成績について、NEJM誌電子版に2020年4月10日に報告した。

 レムデシビルは、核酸アナログのプロドラッグで、ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害する。これまでに、動物モデルを用いた実験では、エボラウイルスや、SARS、MERSの予防と治療に有用であることが示唆されていた。in vitroでは、SARS-CoV-2にも作用することが確認されており、健常人ボランティアやエボラウイルス感染者など、おおよそ500人にこれを投与した研究で、臨床的な安全性も示されていた。

 1月25日に臨床医たちから人道的使用の要望を受けたGilead Sciences社は、レムデシビルの供給に応じることにした。対象にしたのは、RT-PCR検査でSARS-CoV-2感染の診断が確定している入院患者で、室内気での酸素飽和度が94%以下、または酸素療法が必要だった患者。加えて、クレアチニン・クリアランスが30mL/分を上回り、血清ALTとASTの値が正常域上限の5倍未満であり、COVID-19に対して研究に用いられている他の薬を使用しないことに同意した人々とした。

 条件を満たして承認された症例には、10日間にわたってレムデシビルを投与した。1日目は200mg、2日目以降は100mgを静脈内投与した。担当医の判断で支持療法も併用した。追跡は、退院または死亡するまで、もしくは投与開始から28日以上にわたって行った。今回は、2020年3月30日までのデータを報告している。

 あらかじめ特定の評価項目は設定せず、重要な臨床イベント、例えば換気補助レベル(室内気吸入、低流量酸素吸入、非侵襲的陽圧換気法(NIPPV)、侵襲的換気法、ECMOなど)の変化、退院、有害事象、死亡などについて検討した。重症度は6段階のスケールで評価し、1は入院していない、2は入院したが酸素療法は必要ない、3は酸素補充が必要な入院患者、4はネーザル・ハイフローや非侵襲的換気が必要な入院患者、5は侵襲的機械換気やECMOが必要な患者、6は患者死亡とした。

 3月7日までにレムデシビルを1回以上投与された61人の患者のうち、8人はベースライン後の情報がそろわなかったため分析から除外された。分析対象になった53人の年齢の中央値は64歳、範囲は23~82歳、男性が75%だった。53人中22人は米国の患者で、12人はイタリア、9人は日本、4人はフランス、2人はドイツの患者で、オーストリア、オランダ、スペイン、カナダの患者もそれぞれ1人ずつ参加していた。53人のうち40人(75%)が10日間の治療を完了した。10人は5~9日間治療を受けていたが、残りの3人(6%)は治療期間が5日未満だった。

 ベースラインで34人(64%)が侵襲的な換気を受けており、30人(57%)には機械的換気が適用されていた。4人(8%)はECMOにより管理されていた。非侵襲的な酸素投与を受けていた患者は19人(36%)だったレムデシビル投与開始前の侵襲的換気治療期間は中央値で2日(四分位範囲1~8日)だった。発症からレムデシビル投与開始までの日数の中央値は12日(四分位範囲9~15日)で、侵襲的換気を受けていた患者とそうでなかった患者の間に差は見られなかった。

 レムデシベルの初回投与から中央値18日(四分位範囲13~23日)の追跡期間中に、53人中36人(68%)において換気補助レベルに改善が見られたが、8人(15%)は悪化していた。機械的換気を受けていた30人中17人(57%)は抜管に至り、ECMOが適用されていた4人のうち3人(75%)はECMO不要となった。期間中に退院できたのは25人(47%)で、内訳は非侵襲的酸素投与を受けていた19人中17人(89%)、侵襲的換気を受けていた34人中8人(24%)だった。

 28日後までの追跡で、6段階の評価スケールのうち2点以上の臨床的改善が見られた患者の割合は84%(95%信頼区間70-99%)だった。侵襲的換気を受けていた患者では、2点以上の臨床的改善が見られた患者が少なく、非侵襲的患者を基準にしたハザード比は0.33(0.16-0.68)だった。年齢50歳未満の患者と比較した70歳超の患者のハザード比は0.29(0.11-0.74)だった。

 レムデシビル治療終了後に死亡した患者は7人(13%)いた。内訳は、侵襲的換気を受けていた34人中の6人(18%)と、侵襲的換気を受けていなかった19人中の1人(5%)だった。レムデシビル投与開始から死亡までの期間は、中央値で15日(四分位範囲9~17日)だった。死亡リスクが高かったのは、年齢が70歳を超える患者(ハザード比11.34:1.36-94.17)、ベースラインで血清クレアチニン高値だった患者(1mg/dL上昇当たりのハザード比は1.91:1.22-2.99)などだった。侵襲的換気を受けていた患者はハザード比2.78:0.33-23.19で差は有意ではなかった。

 有害事象は追跡中に32人(60%)の患者が経験した。比較的多くの患者に認められたのは、肝酵素値の上昇、下痢、発疹、腎機能障害、低血圧だった。重篤な有害事象は、ベースラインで侵襲的換気を受けていた12人(23%)に報告され、多臓器機能障害症候群、敗血性ショック、急性腎傷害、低血圧などだった。

 これらの結果から著者らは、重症のCOVID-19患者を対象とするレムデシビルの人道的使用により、68%の患者で換気補助レベルが改善したと結論している。なお、さらに有効性を評価するためのプラセボを対照にしたランダム化比較試験が進められている。この研究はGilead Sciences社の支援を受けているとのこと。