検証方法
我々は、室温20℃相対湿度30%に設定した環境試験室の25m3の安全密閉チャンバー内で、鶏卵しょう尿液ならびにしょう尿膜腔中で増殖させたインフルエンザウイルスをネブライザーで噴霧し、一定時間後空気をサンプリングして回収する実験系を有しており、それを用いて日常的に仕事をしています。
今回は、その回収系の最後の部分に調査対象のマスク素材を置き、それを通過してくる空中浮遊粒子の中の活性インフルエンザウイルスの量をプラーク法で測定、あるいは通過してくる空中浮遊粒子の物理的粒子の粒子径ごとの濃度をレーザー粒子測定装置で測定するやり方で、マスク素材の評価を実施しました。
以下は、その結果です。
実施対象は、以下の通りです。
1)3MのN95マスク
2)同マスクに75%アルコールをたっぷり噴霧し、37℃で2時間以上乾燥させたもの(N95-アルコール)
3)同マスクを強力な蛍光管UV消毒装置のUVライトに20分間暴露させたもの(N95-UV)
4)不織布サージカルマスク
5)同マスクに75%アルコールをたっぷり噴霧し、37℃で2時間以上乾燥させたもの(サージカルマスク-アルコール)
6)同マスクを強力な蛍光管UV消毒装置のUVライトに20分間暴露させたもの(サージカルマスクーUV)
7)マスク素材を置かない対照群
結果
以下は、上記2つの消毒処理を行ったN95マスクならびにサージカルマスクが本来の性能を保持しているかどうかを検証したものです。
1. 空中浮遊ウイルス通過阻止能の結果(n=2の平均値)
2. 空中浮遊粒子の粒子としての通過阻止能の結果
全試験対象を通しての実験回数は1回(n=2の平均値)
ただし、N95-アルコールについては、3回の独立実験(n=2の平均値)
結論
1.試験の対象となったマスクは、アルコール消毒によって性能が劣化することが示された。とくにN95マスクにおける劣化は著しく、サージカルマスク以下の性能となった。
2.マスクは、20分間の強力なUV照射によっても性能のある程度の劣化が認められたが、アルコールによる劣化ほどではなかった。
3.以上は、空中浮遊活性インフルエンザウイルスならびに空中浮遊粒子自体の成績の間で矛盾ないものであった。
考察
臨床現場ではN95マスクはアルコール消毒を避けるべきである。もしどうしてもやらざるを得ないようであっても、軽めのUV消毒にとどめるべきかもしれない。
N95マスクでの劣化は、その粒子捕集メカニズムにあると考えられる。すなわち、粒子捕集の多くの部分が素材の目の細かさによっているのではなく、静電気等の分子間力によっているため、アルコールが静電気成分を弱めるなどの働きをしたものと考えられる。
一方で不織布は、その点で性能が分子間力に頼る割合が少なかったのかもしれない。
なお、ここにはデータを示していませんが、以前行った実験でN95マスクは、連続8時間の装着後でも、あるいは保存10年経過した古いものでも性能はほとんど新品と変わらなかったことを、我々は確認していることを参考までに付記します。
また、本実験は、空気チャンバー内空気を、マスク素材を介して人の安静時の呼吸スピードで採取したときの成績です。空中浮遊粒子のマスク素材の通過率は、吸引速度で変わり、スピードが高いほど通過しやすくなります。医療従事者が働いているときの呼吸スピードは、安静時の何倍にもなり、理論的にも実際の実験成績でも、粒子のマスク通過率は、ここで示した実験成績よりもさらに高くなります。マスクを着用したときは走らないでください。
コロナ収束にむけて頑張りましょう!