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◇ 2021(令和3)年2月、中国の思想家で儒教の祖である孔子を祀った「孔子廟」がある公園敷地の使用料を那覇市が徴収せず、無償提供していることの是非が争われた裁判について、最高裁判所大法廷は「特定の宗教に対して特別の便益を提供し、これを援助していると評価されてもやむを得ない」とし、政教分離原則を定めた憲法20条第3項に反するとの違憲判決を出した。
→ 本判決は、裁判官15人のうち14人の多数意見となる。なお、2021(令和3)年2月に最高裁判事に就任した長嶺氏は本件審理に加わらず、前任の林景一氏が審理に加わった。
◇ 最高裁判所が政教分離原則をめぐる判断について違憲判決を下したのは、3件目となる。
→ 愛媛玉串料訴訟(1997(平成9)年)、空知太神社訴訟(2010(平成22)年)に続く3件目の違憲判決で、これまでの2件は神社が関係するものであり、儒教施設が関係するものは初めてとなる。
◇ 裁判の対象となったのは、沖縄県那覇市の松山公園にある「久米至聖廟くめしせいびょう」で、同施設は1,335平方メートルの敷地に孔子像を置く建物(大成殿)や沖縄の歴史を学べる施設などがある。
→ 当初の至聖廟は沖縄戦で焼失したが、久米三十六姓の子孫である「久米崇聖会くめそうせいかい」(一般社団法人)が那覇市若狭に再建し、2013(平成25)年に同市松山公園に移転した。
→ 当時の翁長市長が公益性を認め、公園敷地使用料(年間576万円)の全額を免除する旨の処分をし、「久米崇聖会」が現在の久米至聖廟を建設した。
孔子廟こうしびょう
孔子廟こうしびょうとは、中国の春秋時代の思想家で、儒教の祖である孔子を祀る建物(霊廟)のことをいう。孔子の死後、中国山東省の曲阜きょくふにあった旧居を廟に改築したのが始まりとされる。
◇ 学問や教養として定着した儒教が宗教といえるのかについて、最高裁は言及していないことから、宗教の本質を論じることをしないで、行事や施設の外観、その運営実態などを踏まえて政教分離原則違反を認定したものといえる。
→ 一般社団法人である「久米崇聖会」が宗教団体に該当するかについても、最高裁は判断を示していない。
◇ 今回の判決のポイントは以下のとおりとなる。
◆ 国公有地上にある施設の敷地の使用料の免除が、当該施設の性格や当該免除をすることとした経緯等の諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えて、政教分離規定に違反するか否かを判断するに当たっては、当該施設の性格、当該免除をすることとした経緯、当該免除に伴う国公有地の無償提供の態様、これらに対する一般人の評価等、諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして総合的に判断すべきものと解する。
◆ 久米崇聖会が所有する久米至聖廟の大成殿は、内部に孔子像および神位などが配置され、多くの人が参拝するなど、その外観等に照らして社寺と類似性がある。また、孔子の生誕の日に行われる祭礼は、孔子の霊を迎え、これを崇め奉るという宗教的意義を有する儀式というほかはなく、本件施設(久米至聖廟)の建物はこの祭礼を行う目的に従って配置されており、本件施設については、一体としてその宗教性を肯定することができることはもとより、その程度も軽微とはいえない。
◆ 本件施設(久米至聖廟)は、当初の至聖廟等とは異なる場所に2013(平成25)年に新築されたものであって、当初の至聖廟等を復元したものであることはうかがわれず、法令上の文化財としての取扱いを受けているなどの事情もうかがわれない。また、設置許可前に市の会議で本件施設の宗教性が問題視されていたことからも、本件施設の観光資源等としての意義や歴史的価値をもって、直ちに、本件施設の敷地として国公有地を無償で提供することの必要性及び合理性を裏付けることはできない。
◆ 国公有地の無償提供により、免除される公園使用料相当額が年間約576万円に上るというものであって、久米崇聖会が享受する利益は相当に大きい。
→ また、本件設置許可の期間は3年とされているが、公園の管理上支障がない限り更新が予定されているため、本件施設を構成する建物等が存続する限り更新が繰り返され、これに伴い公園使用料が免除されると、久米崇聖会は継続的に上記同様の利益を享受することとなる。
→ 久米崇聖会は、宗教性を有する本件施設(久米至聖廟)の公開や宗教的意義を有する祭礼の挙行を定款上の目的として掲げており、実際に多くの参拝者を受け入れ、祭礼を挙行している。このような活動内容や位置付け等を考慮すると、公園使用料の全額を免除することは、久米崇聖会に上記利益を享受させることにより、久米崇聖会が本件施設を利用した宗教的活動を行うことを容易にするものであるということができ、その効果が間接的、付随的なものにとどまるとはいえない。
◆ 本件施設(久米至聖廟)の観光資源等としての意義や歴史的価値を考慮しても、本件免除は、一般人の目から見て、市が参加人の上記活動に係る特定の宗教に対して特別の便益を提供し、これを援助していると評価されてもやむを得ないものといえる。
◆ 以上から、社会通念に照らして総合的に判断すると、本件免除は、市と宗教との関わり合いが、我が国の社会的、文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとして、憲法20条3項の禁止する宗教的活動に該当すると解する。
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