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HIV感染者は一般のCOVID-19患者と異なるか?

スペインHospital Universitario Ramon y CajalのPilar Vizcarra氏らは、マドリード在住のHIV感染者を継続的にフォローしており、プロテアーゼ阻害薬や逆転写酵素阻害薬を使用している、HIV感染者と、一般のCOVID-19患者の臨床特性と違いがあるかどうかを検討し、HIV感染者のCOVID-19の臨床経過は一般の患者とほぼ同様で明らかな違いは見られなかったと報告した。結果はLancet HIV誌電子版に2020年5月28日に掲載された。

 HIVに感染している人は、SARS-CoV-2感染リスクと、感染後の重症化リスクが高い可能性がある。特に、併存疾患がある人、CD4細胞数が少ない人、血中ウイルス量が高い人のリスク上昇が懸念されている。一方で、免疫抑制状態にあること、または抗レトロウイルス薬の使用が、感染リスクと臨床経過に影響を与える可能性もある。しかしこれまで、HIV感染者のCOVID-19感染率、臨床特性、転帰に関する情報はほとんどなかった。

 著者らは、マドリードの大学病院1施設を定期的に受診していた2873人のHIV陽性者の中から、18歳以上のHIV陽性者で、2020年4月30日までにCOVID-19確定例または疑い例となった連続する患者を特定し、臨床経過とアウトカムのデータを調べた。これらを一般のCOVID-19患者や、パンデミックが始まる前の2019年の後半6カ月にクリニックを受診しており、COVID-19を発症していないHIV陽性者と比較することにした。

 統計解析は、連続変数ではMann-WhitneyのU検定で、カテゴリー変数はχ2検定またはFisherの正確確率検定を行った。

 HIV感染者2873人中51人がCOVID-19と診断されており、発症率は1.8%(95%信頼区間1.3-2.3%)になった。51人中35人(69%)は定量PCR検査によるCOVID-19確定例で、確定例の発症率は1.2%(0.8-1.7%)だった。同じ期間中にMadrid住民の26万9417人がCOVID-19と診断されており、発症率は4.02%(4.01-4.04%)だった。26万9417人中の6万1577人が確定例で、確定例の発症率は0.92%(0.91-0.93%)だった。

 COVID-19が確定したHIV感染者の平均年齢は53.6歳で、一般のCOVID-19患者の59.7歳よりもやや若く、50~59歳の患者が集中しており51%を占めた。一般のCOVID-19患者の方が広い年代層に分布していた。51人中8人(16%)が女性だった。
 COVID-19と診断されたHIV感染者51人と、そうでないHIV感染者1288人の状態を比較すると、年齢分布、最も低いときのCD4数、受けている抗レトロウイルス治療に違いは見られなかった。BMIの中央値は25.5と23.7で、COVID-19患者の方が高かった(P=0.021)。高血圧、糖尿病、慢性肝疾患などの併存疾患の割合も、63%と38%でCOVID-19患者の方が高かった(P=0.00059)。

 抗レトロウイルス薬(ART)の使用状況を比較したところ、テノホビルの使用率に有意差が見られた。COVID-19患者51人中37人(73%)が診断前にテノホビルを使用していたが、非発症者では38%だった(P=0.0036)。プロテアーゼ阻害薬やインテグラーゼ阻害薬(INSTIs)の使用率には差は見られなかった。

 多変量ロジスティック回帰モデルによる事後解析で、HIV感染者のCOVID-19発症に関連する要因と判定されたのは、補正後のオッズ比が1.1(95%信頼区間1.0-1.2)のBMI、6.2(2.6-14.5)の併存疾患、3.7(1.6-8.7)のテノホビル使用だった。

 51人の病院受診時の主な症状は、乾いた咳、発熱、呼吸困難、疲労感だった。発症から受診までの日数の中央値は6日(四分位範囲3~8日)で、28人(55%)は入院を要したが、23人(45%)が外来で治療を受けた。HIV感染者に見られたCOVID-19臨床症状、検査値、X線画像などは、COVID-19を発症した一般の人々と同様だった。

 COVID-19診断時の検査値が得られたのは35人(69%)で、うち15人(43%)がリンパ球減少症、4人(11%)が血小板減少症だった。8人(23%)に、ALT値の上昇が認められた。PaO2/FiO2の中央値は462(404-474)で、15人(43%)ではDダイマー値が上昇していた。血清サイトカインプロファイルが調べられていた10人のうち、7人(70%)にIL-6の上昇が見られた。

 X線画像が得られた38人(75%)のうち、17人(45%)にコンソリデーションが、21人(55%)には両側肺に浸潤が認められた。11人(29%)は間質性肺疾患のパターンを示した。

 軽症だった12人(24%)は、抗ウイルス療法を受けなかった。のこりの39人(76%)には、対症療法に加えて、抗ウイルス薬の適応外治療が行われた。最も多く用いられたのはヒドロキシクロロキンで、39人中30人(77%)に投与されていた。続いてアジスロマイシン(19人、49%)、リトナビル-ロピナビル(14人、36%)が用いられていた。1人(3%)が臨床試験に参加してレムデシビルの投与を受け、15人(38%)が全身性のステロイド投与を受けていた。4人はトシリズマブを投与された。

 38人(75%)は軽症から中等症で、13人(25%)が重症化した。軽症または中等症の患者に比べ、重症の患者のリンパ球数は少なかった(P=0.049)。6人(12%)が重篤化し、ICUに入院した。うち5人は侵襲的換気を必要とした。重篤化した6人のうち、4人(67%)のCD4数は200個/μL未満だった。重篤化しなかった45人の患者では、その割合は44%だった(P=0.420)。重篤化した患者としなかった患者の間で、年齢、性別、併存疾患、ARTレジメン、HIV感染年度に差は見られなかった。

 重篤化した患者のうち2人(4%)が死亡した。1人はICU入院の翌日に、もうICU入院の5日後に死亡していた。CD4数はそれぞれ、137個/μLと636個/μLだった。いずれも入院前の血清HIV RNA値は検出限界以下だった。44人(86%)は分析時点までに回復していたが、5人(10%)は引き続き入院していた。回復者と入院継続者の比較では、以前の抗ウイルス療法、CD4数の最低値、併存疾患に差は見られなかった。

 診断確定例35人のうち19人が、PCRのフォローアップ検査を受けていた。19人中13人(68%)は、発症から18日目(四分位範囲7~28日)で、ウイルスが消失し陰性になった。一方6人は発症から40日後もSARS-CoV-2ウイルスが検出された。フォローアップ検査で陽性だった患者は、陰性化した患者よりもHIV感染が診断されてからの期間が長く26.9年と16.3年だった(P=0.023)。

 これらの結果から著者らは、HIV感染者の抗ウイルス薬治療はSARS-CoV-2感染を防ぐ効果も重症化するリスクもないようで、HIV感染者も一般のCOVID-19患者と同様の治療を受けるべきだと結論している。