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あしたへ向かって

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肺癌遺伝子パネル検査の成功率は向上!?1

今週のお題「もう一度見たいドラマ」バッテリー あさのあつこ

非小細胞肺癌(NSCLC)においてドライバー遺伝子を標的とした薬剤の開発が進むにつれ、次世代シークエンサー(NGS)を用いて複数の遺伝子を同時に検索できる遺伝子パネル検査の必要性が増している。単一遺伝子検査に比べて、検査に必要な組織量が多く、結果が得られるまでの日数もかかるが、検査の成功率は最近向上している。またリキッドバイオプシーを利用して、進行癌のみならず、早期肺癌で周術期治療に活かす動きも出てきた。

 10月22~24日にハイブリッド方式の開催となった第58回日本癌治療学会学術集会の臓器別シンポジウム「肺癌におけるNGSパネルの実臨床への応用」では、初回治療前の遺伝子パネル検査とがんゲノムプロファイリング検査の現状、リキッドバイオプシーを用いた研究の動向などが紹介。

ドライバー遺伝子の検索に単一遺伝子検査だけでは限界
 非小細胞肺癌(NSCLC)において、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF遺伝子変異といったドライバー遺伝子を有し、全身状態良好な患者に対しては、それぞれの遺伝子異常を標的とするキナーゼ阻害薬による治療が推奨されている。

 ドライバー遺伝子の検出には、1つ1つの遺伝子変異を解析する単一遺伝子検査と複数の遺伝子を同時に解析できるマルチプレックス検査がある。初回治療前の治療薬選択のためのNGSを用いたマルチプレックス検査として、「オンコマインDx Target TestマルチCDxシステム」(オンコマインDxTT)と「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」(F1CDx)が保険収載されている。オンコマインDxTTは、EGFR、 ALK、 ROS1、 BRAFの4遺伝子のコンパニオン診断が可能である。F1CDxは、NSCLCに対するEGFRとALK、固形癌に対するNTRK1/2/3のコンパニオン診断が可能で、がんゲノムプロファイリング機能も持つ。

 従来から肺癌では複数の単一遺伝子検査を行うことが可能であったため、マルチプレックス検査が導入されても初回治療前の検査は単一遺伝子検査が7割を占め、オンコマインDxTTは3割弱であった(日経メディカルOncology調査:調査期間は2020年4月13日から5月1日)。しかしMET遺伝子エクソン14スキッピング(MET ex14)陽性NSCLCに対して、MET阻害薬のテポチニブが3月に承認され、テポチニブのコンパニオン診断薬は「Archer MET コンパニオン診断システム」(以下、Archer MET)になるなど、単一遺伝子検査の組み合わせだけでは難しい状況になってきた。

 国立がん研究センター中央病院病理診断科の谷田部恭氏によれば、6つのバイオマーカー(EGFR、ALK、ROS1、BRAF、METex14、PD-L1)について、「単一遺伝子検査ですべて行おうとすると40枚以上の未染標本が必要になり、現実的には不可能になる場合も少なくない」。単一遺伝子検査での診断法も異なりEGFRはリアルタイム(RT)PCR法、ALKはFISH法かIHC法、ROS1はRT-PCR法、BRAFはNGS法(オンコマインDx Target Test CDxシステム)、PD-L1はIHC法である。

 また2020年4月の診療報酬改定で、「EGFR、ALK、ROS1は処理が複雑ではないもの、BRAF、MET ex14は処理が複雑なものとして、保険点数のマルメが導入され、単純に検査を加算した点数と請求できる点数とに差が生じることになった」(谷田部氏)。具体的には、EGFR、 ALK、ROS1は2項目で4000点、3項目は6000点、BRAF、NTRK、MET ex14は2項目で8000点、3項目以上は12000 点の請求が可能である。「肺癌では複数の単一遺伝子検査を行うことは可能だが、検査に必要な組織の量や保険点数の問題からマルチプレックス検査に移行しつつある」と谷田部氏は述べた。

 「肺癌患者におけるMETex14 skipping検査の手引き」(2020年9月15日第1.0版)では、MET ex14とNTRK 融合遺伝子はオンコマインDxTTで検索可能だが、「研究目的として医師の要望があった場合に参考情報として返却される。その情報をもとに、コンパニオン診断薬であるArcherMET、F1CDxを施行する」となっている。また4遺伝子の測定を同時実施後にMET ex14を実施する場合は、オンコマインDxTT実施後の「残余RNAの利用を考慮できる場合がある」と記載されている。したがって初回治療の治療薬の決定にはまずオンコマインDxTTを成功させることが重要となると考えられている。

 

遺伝子パネル検査の解析成功率を高めるために

 

オンコマインDxTTでは、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)標本から抽出したDNAとRNAを使うが、必要な検体量はDNAが10ng(スライド約10枚)、RNAも10ngであり、「肺癌の検体は小さいがそれに適したパネルではあると思っている」と兵庫県立がんセンター呼吸器内科のかたは話した。ただ、腫瘍割合は30%以上が望ましく、最近では検体が4mm2以下(2mm×2mm以下)の場合は15枚以上が推奨されている。


 SRLのデータによれば、昨年に比べて検査成功率は向上し、昨年7月のDNAでの検査成功率は80.8%だが、今年8月は95.2%に上昇し、量不足率も7.1%から1.5%へと減少した。組織サイズが小さい場合はスライド枚数を増やすことで、量不足率は低下しているという。

 またがんゲノムプロファイリング目的のNGSでも、F1CDxは原則25mm2以上が、「OncoGuide NCCオンコパネルシステム」(NCCオンコパネル)は16mm2以上が必要とされているが、「最近では2mm角(4mm2)で枚数を稼ぐことで解析はできることがわかってきた」と言う。

 

 

リキッドバイオプシーによる検査の展開

遺伝子パネル検査では組織検体が使用されるが、肺癌では十分な組織が得られないこともあり、低侵襲性のリキッドバイオプシーへの期待は大きい。

 リキッドバイオプシーの特徴の1つは検査にかかる時間(TAT)が非常に短いこと。組織検体の場合、PCR法によるTATは5-7日、NGS法では14-21日かかる。リキッドバイオプシーでの血中遊離DNA(cfDNA)の測定もPCR法とNGS法で行われるが、PCR法で3-5日、NGS法でも7-10日と短い。「リキッドバイオプシーにより1週間前後で検査できるのは非常に魅力的なところである」と国立がん研究センター東病院呼吸器外科は述べた。一方で、リキッドバイオプシーは、組織検体を用いた測定に比べて感度が十分とはいえず、NGS法でのコストが非常に高いという問題点がある。また最近では組織検体でも新しい診断機器を導入することによって、4-5日で結果が得られるようになってきたという。

 遺伝子検査には、手術切除検体や気管支鏡生検による検体、針生検による検体、細胞診によるセルブロック検体などが用いられる。先述の日経メディカルOncology調査では、遺伝子検査を行う場合の検体は、気管支鏡生検による鉗子生検検体が77%を占め、手術切除検体は18%、針生検による検体は3%、細胞診によるセルブロック検体は2%であった。また施設において、オンコマインDxTTでの検体は経気管支生検(TBB)が36%、セルブロックが26%、針生検は4%、手術検体は31%であった。核酸抽出量は「針生検よりもセルブロックやTBBのほうが多いという結果は意外だった」と谷田部氏。また解析不成功率はセルブロックで5%、TBBで4%、針生検で11%、手術検体では25%と多かった。

 検査に適した検体を採取するため、里内氏は、気管支鏡生検における自院のこだわりポイントとして、「ターゲットを定めて基本に忠実に組織を採取すること」を挙げた。腫瘍細胞比率を上げるには、組織採取前に造影CTやPET-CTで、「活きの良い腫瘍細胞が多いところを狙う」。再生検では線維化が強く硬いため、大きい組織は取りにくくなり、腫瘍細胞比率は低くなる。そのため「初回生検でできるだけしっかり数多くとっておくこと」とした。多くの組織が必要なときは、呼吸器外科の胸腔鏡補助下手術(VATS)、放射線診断科のCT下生検、消化器内科の超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)など、「他科の得意分野も利用する」。EUS-FNAは「観察したい臓器に最も近い消化管からの超音波観察が可能」で、例えば肺からの転移が多く、胃の真下にある副腎にはEUS-FNAは非常に有用であるとした。

オンコマインDxTTで検査不成功の場合は?
 オンコマインDxTT検査を行なっても不成功となる場合がある。その対応として谷田部氏は、DNAを検査に用いるEGFRの場合は単一遺伝子検査(コバスEGFR変異検出キット)で再検査を行い、BRAFはIHC法で対応しているという。RNAを検査に用いるALKについてはIHC法やFISH法があるため、細胞数が少なくても検索は可能である。一方、ROS1のコンパニオン診断はAmoy ROS1 RT-PCRであるが、「私たちのところで検討してみたところ不成功率が12%あり、それを考慮して、簡便な免疫染色によるスクリーニングを行っている」(谷田部氏)。米国病理学会(CAP)、国際肺癌学会(IASLC)、米国分子病理学会(AMP)による肺癌治療の分子診断検査ガイドラインでも、「ROS1 IHCをスクリーニングとして用いてもよいことが記載されている」

 実際にROS1のIHC検査を実施した症例が紹介された。87歳女性、術後再発で手術標本をオンコマインDxTT検査に提出した。しかしDNAで変異は認められずRNAは質的不良であった。ALKとROS1の免疫染色を施行した結果、「びまん性で強い陽性像を認めることから、ROS1融合遺伝子の存在が強く示唆された」。この所見から患者さんに説明し、Amoy ROS1検査に提出することとなり、実際にROS1陽性で、クリゾチニブの適用であることがわかった。

包括的がんゲノムプロファイリング検査の実際
 がんゲノムプロファイリング(CGP)検査に関して、施設において、解析依頼された検体620検体のうち3分の2はCGP検査が施行できたという。F1CDxの成功率は手術検体では78%だが、セルブロックで30%、TBBで50%、針生検で20%と「あまり高くない」。また検査に手術検体が用いられた割合はF1CDxのほうがNCCオンコパネルよりも高くなっており、「これはF1CDxとNCCオンコパネルに要求される組織量が異なることに起因すると考えられる」とした。

 このため病理標本の評価アルゴリズムを作成した。組織量が4mm2以下であれば、遺伝子パネル検査は不適、4-25mm2であればNCCオンコパネル、25mm2以上であればF1CDx、NCCオンコパネルのどちらでもいいとする。次に腫瘍細胞含有率を検討して20%以上であることが確認されれば、どちらかの遺伝子パネル検査に提出するが、どちらの遺伝子パネル検査を使ったほうがいいのか、「少しでも標本に不安があれば、未定の欄にチェックして依頼書を出している」

 組織量の問題だけでなく、古い標本では検査ができないことも多い。BRAF検査データにおいて、FFPE作製後の期間が3年前と3年以内の標本を比較したところ、3年前のブロックでは評価不能例が28%、3年以内は11%と2倍以上の差があった。この傾向はCGP検査でも認められるという。

 「現状として遺伝子パネル検査の成功率はだんだん高くなってきているが、CGP検査ではサンプルタイプによって検査が出来ない場合がある。検査不能例をいかに少なくするか、古い標本でいかに解析成功率を上げるかが課題となっている」と谷田部氏は話した。

 現在、がんゲノムプロファイリング検査は、標準治療がない固形癌患者または局所進行もしくは転移が認められ標準治療が終了となった固形癌患者(終了が見込まれる者を含む)を対象に保険適用されている。

 講演の中で、標準治療後にドライバー遺伝子変異が見つかった患者を紹介した。48歳女性、肺腺癌の患者。前医でオンコマインDxTTを行なったがEGFR陰性、ALK陰性で、再生検をしたがドライバー遺伝子は検出されなかった。5次治療後にNGSを希望したため、再々生検を実施。F1CDx検査に80枚を提出したところ、EGFRエクソン20挿入変異(Ex20ins)と判明し、治験に入ることができたという話をきいた。