2020年7月、全ての小売店でレジ袋の有料化が義務化され、薬局も対象となる。雑誌「日経ドラッグインフォメーション プレミアム版」20年1月号では、制度の全体像と、レジ袋そのものを廃止した薬局の事例を紹介した。有料化を前に、同記事の内容を一部抜粋・改変して紹介する。
「レジ袋はご入り用ですか。1つ3円になります」─。2020 年7月1日から、薬局のカウンターでは、こうした声掛けが必要になりそうだ。
薬局では薬袋や薬剤情報提供文書、明細書などをプラスチック製のレジ袋に入れて交付する機会が多いが、19年12月末、
経済産業省など4省による省令が改正されて、このレジ袋の有料化の義務化が正式に決定した。
今回、対象となる事業者は、規模にかかわらず小売業に属する全て。つまり、薬局も例外ではない。
省令改正の基本は、あらゆるプラスチック製買い物袋を有料化することで、過剰な使用を抑制していくというもの。省令に基づく有料化の対象は、商品の購入の際に商品を持ち運ぶために用いる、持ち手が付いた、化石資源由来のワンウェイのプラスチック製買い物袋である
ただし対象外もある。(1)バイオマス素材の配合率が25%以上の買い物袋、(2)繰り返し使用の観点から厚さ50μm以上の(プラスチック製)買い物袋、(3)海洋生分解性プラスチックの配合率が100%の買い物袋─の3つ。
現在、薬局で配布している一般的なレジ袋は、持ち手があり、12~14μm程度の厚さのため、有料化の対象となる。価格は、消費者のライフスタイルの変革を促すという趣旨を踏まえて事業者が設定することになっているが、1枚当たりの価格が1円未満になるような価格は有料化には当たらないとしている。袋の売り上げの使い道も事業者に任されている。なお、様々な薬局で導入が進む「ビニール薬袋」は、持ち手がないため、そもそも有料化の対象外だ。
レジ袋を廃止する薬局も
有料化スタートに当たり、薬局ではまず、現在配布しているレジ袋を、そのまま有料化するかどうかを決める必要がある。というのも、今回の有料化の趣旨は、国全体のプラスチックごみの排出抑制であり、マイバッグの持参を推奨するなど、レジ袋自体の配布を中止する選択肢もあるからだ(写真1、詳細は次ページ別掲記事参照)。
写真1 レジ袋自体の配布を中止したドレミ薬局香椎店(福岡市東区)
有料化する場合、価格の設定も悩みどころ。環境省が、レジ袋を有料化したスーパーマーケットなど小売業の12社を対象に行った調査では、2~5円で設定した11 社で、辞退率(レジ袋は要らないと言った顧客の割合)が7割を超えていたという結果がある。
薬局では、患者が有料のレジ袋を断った場合と希望した場合のそれぞれについて、どのように対応するのか、オペレーションを店舗全体で決めておく必要があるだろう。調剤した薬を患者が後で取りに来る場合に、一律にレジ袋に入れて保管しているという薬局では、患者の意向を聞いてから渡す一手間も生じ得る。
もちろん配布するレジ袋を、バイオマスプラスチックの配合率が25%以上のものに切り替えれば、これまで通り無料で渡すことも可能だ。しかし、こうしたレジ袋は安くても1つ1円以上で流通しており、1円未満で買えていた従来のものに比べてコストがかかるため、導入は簡単ではなさそうだ。
レジ袋廃止は薬局の姿勢を示すチャンス
レジ袋を有料化するのではなく、いち早く廃止した薬局がある。福岡市東区にあるドレミ薬局香椎店だ。
同店は、2019年9月でレジ袋の配布をやめた。10月以降は、袋が必要という人には10~80円で紙製や不織布の袋を販売し始めたが、積極的には勧めていない。1日に150枚ほど配布していたレジ袋は、今では紙袋などを買う人が3 ~ 4人ほどにまで減った。
「18年の夏以降に、スターバックスなど海外の外食チェーンでプラスチック製ストローを廃止するというニュースを耳にしたのがきっかけ」と同店を経営する薬師丸(福岡市東区)代表取締役の才所洋子氏は話す。国全体の動きというよりも、世界的に海洋プラスチック汚染が問題になっていることを知り、薬局でも排出削減に取り組むべきだと考えたという。
まず、才所氏は18年12月、実際にレジ袋の削減をどう進めていくか、スタッフと検討を始めた。その際、スタッフに伝えたのが「今配っているレジ袋をただ有料化するのではなく、配布そのものをやめたい」という意向だった。
スタッフからは、「糖尿病の患者に交付するインスリンの針は、どうしてもかさばる。袋を渡さないで大丈夫か」「他の薬局では配っているのに、うちが配らないことを患者に理解してもらえるか」などの声が挙がった。
また、これまでレジ袋は何年か分をまとめて購入していたため、まだ在庫がある状態。とはいえ、期限を決めて取り組むことが重要だと考え、2019年年初から患者への周知を開始し、年内には配布をやめることにした。
患者の関心の高さを痛感
周知の方法は、待合やカウンターでの掲示と、スタッフの声掛け。掲示したポスターに工夫を凝らし、周知の開始時、配布終了直前、配布終了後とデザインや文言をアレンジした(前ページ写真1参照)。
また、実際に無料で配布したり、販売する紙袋の実物や価格も、分かりやすく壁に張った(写真A)。
「待合のポスターなどを眺めている患者は多く、思った以上に関心の高さを感じた。配布終了前から『袋は要りません』と自分から言ってきてくれる人や、マイバッグを持参する人が出てきた」(才所氏)。
スタッフとの会話から、薬局でレジ袋が必要になる理由として、薬袋や薬剤情報提供文書、明細書をそのままカバンに入れるとバラバラになるからだろうと気付いた。そこで、3mm幅の輪ゴムでこれらをまとめて渡すようにしてみたところ、患者からは好評だという(写真B)。
当初、雨の日だけはレジ袋を渡そうか迷ったという才所氏だったが、スタッフから、「渡す患者と渡さない患者がいるのは分かりにくくなるので、それはやめた方がいい」との提案があり、配らないことを決断できた。
患者への周知を行い、レジ袋の在庫がなくなるタイミングの9月末をもって配布を終了した。
配布をやめたことによる影響もある。袋があれば、薬局のイベントなどのチラシを入れて渡しやすかったが、そのままでは受け取ってもらいにくくなった。また、レジ袋には薬局名を印字していたので、宣伝効果はなくなった。
それでも「これは環境問題に対する薬局の姿勢を示せるチャンスになる。当初は患者に受け入れてもらえるか不安な部分もあったが、『一緒に取り組んでいきましょう』と呼び掛けており、今は大きな手応えを感じている」と才所氏は話している。