「パート薬剤師は、所詮“コマ”にすぎないんですよ」。仮名50代の女性薬剤師Aさんは、自嘲気味にこう語る。
数年前から首都圏の大手チェーンの薬局に週3日、1日8時間のパートとして勤務していたが、新型コロナウイルス感染症（COVID-19）が拡大し始めた2020年3月ごろから、職場環境が一変した。
もともとAさんの薬局は1日40枚を超えるくらいの処方箋を応需しており、日中、薬剤師は正社員1人、パート1人の2人体制で回していた。
だが、90日分など長期処方の増加や、周辺の医療機関の外来患者が減少したこともあり、1日40枚を下回るようになってきた。また、COVID-19の感染防止のための電話等による診療の特例措置（0410対応）により、医療機関から薬局に直接ファクスされる処方箋が増え、急ぎの調剤を求める患者も減り、Aさんの薬局は閑散としたという。
もともと年明けから退職者が続いていたこともあったが、こうしたタイミングで、会社の方針により日中は1人薬剤師の体制となった。
4月に入り、首都圏を含む7都府県に緊急事態宣言が発令されると、状況はさらに悪化。Aさんはシフトの削減に加えて、勤務先のシフトに入れてもらえない日は、チェーン内の別の店舗での勤務（ヘルプ）を頼まれるようになった。勤務時間が減らないようにとの店側の配慮にも思えるが、「最初は週1回、別の店舗に行く程度という話だったのが、5月に入ると、勤務当日の朝になってから、エリアマネジャーから『今日はこっちの店に行って』と当然のように言われるようになり、さすがにひどいと思った」（Aさん）。「ヘルプ先の店舗も明らかに暇で、ヘルプで来た自分は居心地の悪さを感じてしまい、18時までの勤務でも『15時くらいに切り上げますよ』と自ら申し出ることも度々だった」と話す。
戻らない処方箋、シフト激減
COVID-19の感染拡大に伴い、薬局のパート、派遣薬剤師の雇用に影響？（n=849）
COVID-19は、薬局の経営にダメージを与えている。20年7月に行った薬剤師会員向け調査では（有効回答数849人）、「処方箋枚数が対前年同月比で20%以上減少した」と答えた回答者は、3月分で全体の3割を占め、4、5月は4割以上に上った6月に入っても3割超が「20%以上減少」と回答しており、厳しい状況が続いていることがうかがえた。
2020年3～6月の薬局の処方箋応需枚数は？（2019年同月比、n=849）
そのあおりを受けたのが、Aさんのようなパートや派遣の薬剤師だ。実際、調査では回答者の26.9%がこうした非正規の雇用に「影響があった」と回答。具体的には「1週間の勤務日数（シフト）の削減」、「1日の勤務時間（シフト）の削減」、「派遣を断った」などが上がった。
特に影響が大きかったとみられるのが、受診控えが目立った小児科や耳鼻咽喉科の処方箋を多く応需していた薬局だ。耳鼻咽喉科診療所の門前薬局でパートとして働く60代以上の薬剤師は、「これまで繁忙期は週4～5日入ることもあり、閑散期でも最低週2日くらいだったが、6月は1カ月に3日（半日）、7月は1カ月で半日と極端にシフトが減った。その分を正社員でカバーしている」と実態を明かす。
パートで働く薬剤師には、幼稚園や学校に通う子どもの都合に合わせて働く人が多いこともあり、中には休園・休校期間中は仕事を休んだという声も目立った。だが、6月から学校が再開され、再び働こうと思っても、元のシフトに戻れない事態になっている。
日曜日だけ、都心の薬局でパート勤務をしている30代のBさんは、「4月からシフトが白紙になってしまった」と明かす。ここ数カ月は月末になると、翌月のシフトに入れるかをパート先に確認するも、「処方箋枚数が戻ってこないので」と良い返事はもらえていない。
影響はパートの求人にも及ぼしている。薬剤師の転職事業を手掛ける日経HR（東京都千代田区）の担当者によると、「新型コロナの流行を機に、都市部を中心に全国的に薬剤師の求人数が減り、売り手市場から買い手市場になっている。働く側の『金曜日の11～14時だけ働きたい』などの細かい要望が叶わなくなっている」と話す。
パート薬剤師の時給も、調剤薬局に関しては、ここ数カ月で緩やかな低下傾向がみられる。20年7月1日更新分の全国平均は1992円～2978円で、5月1日更新分（2019円～3007円）から徐々に下がっていると聞く
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