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あしたへ向かって

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新型コロナ、「5類格下げ」に反対する理由について

現在、医療者のみならず、メディアや一般の人からも「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染症法上の分類を(「新型インフルエンザ等感染症」から)5類に格下げすべきではないか」という意見が増えてきている。それには「反対」の立場もあり、今回はその理由を詳しく?まとめて述べたい。なぜ5類への格下げが不適切なのか。それを説明するためにまずは1つの事例を紹介したい。

 

【症例】50歳代男性
 数年前から当院をかかりつけにしている男性でHIVと高血圧がある。いずれも内服でコントロールできている。5月上旬のある日、感冒症状を訴え、当院の発熱外来を受診。他覚的には重症とはいえないが倦怠感がやや強い印象。体温37.3度。聴診上明らかな異常はなく酸素飽和度95%。

 

HIVがCOVID-19の増悪因子になるかどうかについて日本ではあまり検討されていないと思うが、例えば、「HIV陽性者がCOVID-19に罹患すると死亡リスクが2倍になる」とするイングランドの研究がある。厚労省の「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 第5.2版」の13ページに記載されている「重症化のリスク因子」でも「HIV感染症(特にCD4<200/uL)」が挙げられている。

 この男性のHIVはしっかりとコントロールできておりCD4は常に700/uL以上はある。血圧も降圧薬の使用で安定している。この事例に対し、保健所へ報告する際に「COVID-19の症状は現在軽度であるがHIV陽性であることを考慮して入院を検討してほしい」とは伝えた。「検討はする」とは言ってもらったものの、果たしてウェイティングリストの上位に挙げてもらえるのだろうか。

 当時の(といってもほんの数カ月前の話なのだが)大阪の医療は逼迫を通り越して“崩壊”していた。例えば、この男性の感染が発覚する数日前、60歳代で糖尿病の治療中の男性は入院どころか療養型宿泊所への入所もかなわなかった。保健所から送られてきたパルスオキシメーターの数字をおそるおそる確認するという日々が続いていたのだ。

 そのような状況の中、HIV陽性のこの男性の入院を受け入れてくれる病院があるとは思えない。というのは、COVID-19が流行する以前から、エイズ拠点病院を除けばHIV陽性者の入院をお願いしてうまくいったケースがほとんどないからだ。中には、過去のコラム( HIV陽性者の診療拒否は「日本の医療の恥」だ)で紹介したように、それまでは定期的に大腸内視鏡を実施していた病院が、HIV陽性が発覚したとたんに診察拒否したような例もあるのだ。

 運よくこの男性の保健所からの入院依頼が、エイズ拠点病院(エイズ拠点病院ならCOVID-19陽性者も受け入れているだろう)にいけば入院できる可能性はあるだろうが、大阪府下全域で空いている病床はほぼ皆無であり、数少ないエイズ拠点病院に空きがでる可能性はそう高くないだろう。

 結論から言えば、幸運なことにこの男性は入院できた。しかもエイズ拠点病院ではない病院に、ということだ。保健所のスタッフがきちんと交渉してくれた。個室に入院であるから、当院から毎日この男性に電話で様子を伺った。酸素飽和度は92~93%にやや低下し、呼吸苦はないものの、酸素投与が行われることになったようだ。医療スタッフにはきちんとケアしてもらい、HIVを理由に不利益を被ることもなかったようだ。
5類になったら入院依頼はかかりつけ医の仕事?

 

次に書きたい

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